久保田たかし(崇)の『復興・防災論』【最終回】
コラム
大震災から9年。私たちにできることとは?
※この記事は2019年3月8日に作成されました。
東日本大震災から9年を迎えました。今年は新型コロナウィルスの影響で、3.11に予定されていた政府主催の追悼祈念式典は中止となりました。
東北の被災各地でも自治体主催の追悼式は中止や縮小が相次ぎました。仕方のないことですが、残念に思います。
被災地の現状は、どうなっているでしょうか。復興庁が本年2月に発表した全国の避難者数は4万8千人で、震災直後の47万人と比べると1割ほどに減少したことになります。また、共同通信がまとめた本年4月以降の仮設住宅入居者数は被災三県(岩手、宮城、福島)で60世帯120人となり、震災直後の5万3千戸から、10年後となる来年度末(2020年度末)にようやくゼロとなる見込みとなりました。
2020年4月以降のプレハブ仮設住宅の入居者数(出典)岩手県、宮城県、福島県の各「応急仮設住宅の供与期間の延長について」、自治体へのアンケートを基にした共同通信のまとめ( 2020年3月5日)、復興庁「全国の避難者数」2020年2月28日などから作成 まだこんなにいるのか、という声もあるでしょう。
東京オリンピックまでに仮設住宅を解消することはできませんでしたが、復興事業に関わった立場からすると、相続人不明土地の取得など住居の高台移転のための様々な困難な課題があった中で、年度末までに解消の目処がついたことは評価すべきではないでしょうか。
あわせて、2020年度末までが設置期限となっていた復興庁は10年間の延長が決まり、今後は原発被災への対応が中心となります。この点については、昨年のこちらの記事でつけた復興庁に対する注文はかなわず、残念です。教訓の第一は、「確実に逃げること」 被災地の復興も終盤に入り、(福島を除き)終わりが見えてきました。
私たちに今できることは、大震災の教訓を生かし、次の災害における被害を最小化することではないかと思います。逆にそうでなければ、震災で犠牲となり、お亡くなりになった方は浮かばれません。
その観点でまず第一に挙げたい教訓は、「確実に逃げること」です。このことは既に過去の記事『東日本大震災で生死を分けたのは、一体何だったのか?』でも述べましたが、ポイントを以下示します。
地震発生時にいた場所が津波浸水域となった人で、当日の行動について情報が得られた人のうち、被害がなかった人は津波到達前までに8割の人が避難していたのに対し、犠牲者の場合はその割合は5割程度に止まり、4割の人は避難をしていませんでした。(犠牲者についての情報は、ご遺族の方にご協力を得てアンケートを実施しました) あれだけの大津波でも逃げない人がいたということに驚く人もいるかもしれませんが、逃げなかった主な理由は、「油断した」「家族やペットなどを助けに行った(戻った)」「足や耳が悪く逃げ遅れた、自力で逃げられなかった」など様々です。
私が復興の仕事で関わった岩手県陸前高田市では、ハザードマップでは津波浸水が1m前後と予想されていたエリアに10mを超える津波が襲いましたので、ハザードマップで浸水が予想されているエリアはもちろん、その周辺地域でも確実に逃げる態勢を取るべきです。
また、大津波が来るかどうかは発生するまではわかりません。小規模な津波で終わることも多いですが、「今回も大したことはないだろう」と油断しないで毎回注意を怠らないことが大切です。
次に、自宅で過ごせる準備をすることです。自治体は避難者のための避難所を開設しますが、東日本大震災や熊本地震などを通じて明らかになってきたことは、衛生状態やストレスが発生しやすい避難所での生活は、避難者への大きな負担になるということです。
2019年12月に復興庁が発表した同年9月時点の震災関連死者数は3,739人であり、この数字は警察庁が本年3月6日に発表した直接的な死者数である、同1日現在の15,899人(行方不明者は2,529人)と比べても相当大きなものです。 陸前高田市では、震災から5ヶ月となる2011年8月まで体育館などの避難所での生活が続きましたが、初期においては水道が止まったことでトイレに汚物がたまって流れない、食事の配給がおにぎりやパンなど栄養が偏る、着替えなどのプライバシーがないなどの様々な問題がありました。
特にトイレに行けないとなると、水分補給を抑制したくなり、これは健康に悪影響を及ぼします。
現在では、避難所でも簡易トイレなどの備蓄が進んでいますので以前よりは状況は改善するかもしれませんが、大勢の避難者と共有すればトイレの際には行列になることは避けられません。
水道が止まった、トイレが使えない、食料が調達できない、家具が倒れて家の中が散らかっているなどの理由で避難所での生活を選択された方もいましたが、自宅が無事なら住み慣れた自宅で生活することが基本です。
家具の固定、食料や水の備蓄、簡易トイレなどはよく言われることではありますがとても大切です。簡易トイレは様々なタイプがあり高価なものでなくても十分ですので揃えたいものです。
いざという時には、大きめのポリ袋(ゴミ袋)を洋式トイレにセットし、その上にビニール袋をセット、その中に新聞紙をしくことで簡易トイレとすることも可能です(用を足したら、ビニール袋を二重に縛ってゴミ捨て可能になるまで保管する)。
もちろん、自宅が被災した場合には、避難所に行くことを躊躇すべきではありませんが、できる限り自宅で生活を続けられるように備えることが大切です。このことは、本当に避難が必要な方だけ(最小限の人数)が避難所を使用いただくことにつながり、行政の支援などもそうした方に効果的に届くようになります。
最後に、機会があれば、東北の被災地に足を運ばれることをおすすめします。私は昨年9月に陸前高田市に完成した国営追悼祈念施設・津波伝承館・道の駅の一体型施設を年末に訪問しましたが、津波の実態や教訓などが整理され、防災学習にも効果的だと感じました。東日本大震災の経験から「明日は我が身」として教訓を役立てることが、今私たちができることではないでしょうか。
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